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         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      




変梃子りんな秋がいよいよ深まって。
気温の乱高下も、まま過ごしやすい気候が長く続いていると思やいいこと、
空の高さや風の清かなところはしっかと秋めいてもいるのだしと。
深紅に色づいたカエデや黄金色の銀杏が映える青空の下、
ここいら近隣の、いやさ都内でも有数の知名度と格を誇る、
某お嬢様学園高等部では、
秋の学園祭を11月の初め、文化の日にかかるようにと構えておいで。
今年は週の真ん中、木曜だったため、
文化の日が初日というセッティングで幕開けとなり、
まずはの来賓招待日は、開催の辞と舞台演目の発表や造形展示のお披露目。
2日目はOGやご家族への優待日で、
そして最終日に一般公開となり、
OGや職員せんせえらのバンド演奏とは別口、
一年生らで立ち上げたガールズバンドが奮闘し、
後夜祭よろしく、野外音楽堂で演奏を披露して幕となったのが昨年の流れ。
そのガールズバンドの演奏に、
現在の学園で恐らくはナンバーワンという人気や知名度を誇る、
例のおきゃんな三人娘も、
シークレットメンバーとして加わったものだから。
あまり関心はないままに集まっていたお嬢様がたが
登場と共に、キャーッと悲鳴を上げての興奮状態に陥り。
そのまま携帯で飛ばしたメールがお客を呼んでの、
結果、立ち見が出たほどの大入り満員という賑わいになったほどであり。

 「今年の公演もそれはお素敵でしたよねぇvv」
 「ええ ええ、もうvv」

昨年は金曜だった最終日が、今年は土曜日だったせいもあってか。
4's ガールズバンドのファンだという、
学外からの一般のお客さんも多かったその上に。
昨年の熱狂を覚えていたクチ、
在校生のお嬢様がたも、目玉演目だとチェックしていたものか。
今年は最初から満員同然という、お客様の入りのよさであり。
昼下がりという明るい時間帯から
幕を開けたステージだったにもかかわらず。
昨年同様、食いつきのいいお嬢様たちの盛り上がりも素晴らしく。
今年はミニスカートの上へ、
シフォン素材のスカートをサイドから後ろへだけ重ね。
ジャケットはウエストカットという短い丈のを羽織っての、
ちょっぴりアイドル風を狙った衣装にしたのも大ウケだったし。
AKBからアニソン、ポップス、
ユーロビートに バラードと。
軽快な曲からしんみり聴かせる独唱曲に至るまで、
レパートリーも幅広く。
勿論のこと、見事な演奏とお歌をご披露したものだから。
演者それぞれへのファン層が熱狂するだけのステージではなく、
一緒に歌おう興じましょうとする、
学園祭に相応わしい、一大ページェントへまで盛り上がり。
お嬢様グルーピーの皆様が掛けて来る声援が、
終演近くには もはや絶叫に間近いそれへと跳ね上がっていたほどで。

  そこまで盛り上がったからには…というワケでもないのだが

今年は日曜日にあたる“お片付けの日”も、
まだまだ興奮冷めやらずという張り切りっぷりで、登校して来たお歴々。
制服を汚さないためと、動きやすさを優先し、
全員が体操服に着替えてから。
装飾に使ったリボンや布、レースやモールなどを剥がしたり、
グラウンドへ設営していた屋台組みを解体したり。
仮装や演劇に用いた衣装は、
クリーニング屋さんへ引き取ってもらうよう、
ひとまとめに整理をし。
模擬店の食器だの調理器だの、
はたまた音響やら電飾やらの機材をレンタルした“出し物”班は、
それらを磨き上げた上で、お返しするための梱包を手掛けて…といった。
準備作業を逆回しにするような撤収を、手際よく片付けてゆくところは、

 『今年度の二年生が在学中は、
  シスターたちが口やかましく言って回らずとも大丈夫ですわね。』

普通の十代の少女とは一味違う存在感から、
皆からの視線が自然と集まっている名物娘らが、
こういう雑事へも、それはてきぱきしていての骨惜しみをしないので。
お片付けなぞ 人任せにして来たお嬢様たちへの、
丁度いいお手本となっており。

 金髪頭を引っ詰めに結っての勇ましく、
 短距離走のクラウチングスタートよろしく、
 道場の板張り床への雑巾がけに勤しんでおれば、

 「白百合のお姉様、手際がよろしいのね。」
 「私たちも見習わなくては。」

 やはり金の髪を鉢巻きで凛々しくまとめ、
 体操服の袖をまくり上げての洗い場へと立ち向かい、
 雑巾のまとめ洗いに勤しんでおれば、

 「紅ばら様、
  お手が荒れてしまいますから、洗い物は私たちが。」
 「そうそう。バレエの公演も間近と訊いておりますわ。」

 こちらはこちらで、
 美術部の作品を展示した、天井の高い広間のあちこち、
 柱の上のほうになぞと飾った造花やリボンを、
 脚立やハシゴを掛けてのよじ登って外しておれば、

 「ひなげしちゃん、
  そんな高いところへよじ登っては危ないですわ。」
 「そうですよ? 私たちにお任せなさい。」

何とも頼もしい上級生の皆様に、
脚立を取り上げられてしまっていたりして。
そんなこんなで、見ようによっては花嫁修業よろしく、
はたまた、昨日までの学園祭と同じほどに和気あいあいと。
愛らしくも清らか淑やかなお嬢様がたが、
大掛かりなお片付けに勤しんでおいでで。
それがそろそろ終焉に近づこうかという時間帯を迎えて、

 「あらゴロさん。お早いお越しですね。」
 「なに、他のところも回るのでな。」

通用門のほうから第一校舎の裏手、通用口前までを、
なめらかな運転にてボックスカーで進入して来たのは、
すぐご近所へ甘味処を構えておいでの片山五郎兵衛さん。
ちょいと古ぼけたこしらえの、古民家利用の店構えながら、
今や様々なグルメマップにも掲載されての、
その筋では随分と有名なパティシエさんでもあって。
自家製の甘味やスィーツを提供するのみならず、
どんな注文へもさらり応じるズバ抜けた料理の腕を持ち、
すぐお隣りには不定期営業のカウンターバーも経営しておいでという、
なかなかのやり手なお人。
というのも、若い頃にはデイバッグ1つという身軽さで、
世界中を徒歩の旅にて回った猛者でもあって。
前世と変わらぬ ざっかけない気性から、
人との交流も山ほどあったという様々な経験を糧に、
機転も利くがそれより何より、
どんな事態が襲おうと揺らがず構えておれる
そんな人性の頼もしさを保っておいでの偉丈夫さんで。
とはいえ、

 「ヘイさんのご機嫌は戻りましたか?」
 「ああ。…ははっ、まあその内にな。」

何を言いたい彼女だか、まるきり心当たりがないかと思いきや、
実は実はようよう気がついていた彼であるらしく。
そこは…さすがは大おとな、というところだろうか。

  というのも、

こちらの女学園へも、
催しに合わせてのお茶菓子を発注されるのへと応じておいでだが。
学園祭の来賓用のお菓子に関しては、
それぞれに素晴らしい“熟女”となられたOGたちが、
一体どこで知り合った仲なのか、
懐かしい五郎兵衛さんのお菓子を食べたいというリクエストが、
こそり…と言うにはあまりに公然と、
山ほど寄せられての作られているのだそうで。
そうしてそして、そんな微笑ましい事情があるのへと、
あの、日頃は飄々としているメカの天才少女が、
唯一 あからさまに焼き餅を焼いてしまい、
微妙に手がつけられなくなるのもまた この時期のこと。

 「ヘイさんしか眼中にないぞって、ちゃんと言って差し上げないと。」
 「そうは言うがな、シチさんや。」

少々年寄りのような言い回しをするのは、かつての彼と同じだが、
かつてと違うのは、
転生という奇跡によって再会した仲間内の半分が、
何と ずんと年下の女子だったこと。
なので、ざっかけないところも同じなのが嬉しい再会でありながら、
同じなのが焦れったくもあるとする…微妙な乙女心と、
真っ向からお膝を突き合わせにゃならぬ日々にあって。

 「ヘイさんほどの可愛らしい別嬪さんを前にするとな、
  そんな歯が浮きそうな言いよう、なかなか出て来やせんのだ。」

随分と鹿爪らしいお顔で言うものだから、却って苦笑がついつい零れて。

 「あらまあ、御馳走様vv」

ほほと微笑った七郎次だとて、
かつての前世は きりりと凛々しい“もののふ”という猛者だったはず。
容姿風貌も、性質も、さして変わらぬ風でありながら、
なのにどういう奇縁の悪戯か、年の若い女子なものだから、

 “勘兵衛殿も気苦労が絶えんわな。”

あともう一人ほど、同じような境遇に苦悩しているお人がいるがと、

 「そういえば、久蔵殿は一緒ではないのかな?」

思い出した次いで、
自分がここへ来た用件にも関わりがあることと訊いたのと、

 「ええ、それが……。」

コーラス部のご注文を届けられた飯台も此処に…と。
五郎兵衛殿が納入した際に使ったそれだろう、
蓋のついた大型の木箱が、
長テーブルの上へ幾つか重なっているのを指し示したのと。

 「? おや?」

その五郎兵衛とある意味でご同業か、
やはりボックスカーが一台ほど、
細かい砂利が敷かれたロータリーへ乗り入れて来たものだから。
おっといけないと、
ややこしい前世の話はしないようにせねばなどと
二人が意識を切り替えかかったものの。
するするっと近づいて来たそっちの車は、
妙に加速があっての急いでいるような雰囲気であり。
しかもしかも、

  ―― え?

きっちりと停止し終えぬうちにも
後部座席に当たろうスライドドアがガラガラっと開かれると、
乗って来た数人ほどがそこから一気に降り立って来て。
事もあろうに、二人ほどが七郎次へと真っ直ぐ向かって来るではないか。
何か話しかけて来るという様子はなくの、まったくの無表情のまま。
されど、伸ばされた手が恐れも衒いもないきっぱりした動作だったのへは、

 「な…っ。」

当人が素早い身のこなしでササッと後じさり、

 「……何をするつもりかの?」

こちらも目元の表情を険しくした五郎兵衛が、
同じような作業服姿の彼らを咎めたが、

 「…っ、ゴロさんっ!」

わずかながら時間差を置いて、
続いて降り立って来た仲間内があったようで。
無論のこと、そんな気配にも気づいた五郎兵衛殿。
こちらも、一介の壮年とは思えぬ身ごなしで、
しかも相当な反射のよさ、ひょいと身を下げてしまい。
見えもしない背後から ぶんと思い切りよく振られたバットだか棒だか、
見事に避けてしまったけれど。
返す勢いで同じ軌道を戻って来たその凶器を、
立てた前腕にてはっしと捕らえたのと、

 「……何を、離してっ!」
 「シチさんっ。」

最初に避けられた二人ほどが、
怖じける事なくどんどんと踏み込んでっての彼女へと詰め寄ってゆき。

  しかもしかも

  「  ……っ。」

何かしら囁かれたか、
いや、彼らの小声での会話を聞きでもしたか。
それにしたって、それが理由とは少々解せぬことながら、
だが、そうとしか思えぬような反応で。
五郎兵衛と違わぬほどの腕前にて、きっちり対処出来たはずの白百合様、
だというに……呆気ないほどあっさりと捕まってしまうと、
さして抵抗もせぬままに、
怪しい一味の乗りつけた車へと引きずり込まれてしまったのだった。






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  *何だか穏やかじゃあない展開ですね。
   勘兵衛様より久蔵さんのほうが
   激怒しそうに思うのは私だけでしょか。
(おいおい)
 


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